「向いていなかった」の本当の意味
離職の現場に漂う、諦めの言葉
医療・介護・福祉の現場で、退職を決めたスタッフの口からよく聞かれる言葉があります。 「この仕事、自分には向いていなかったんだと思います」
せっかく資格を取り、志を持って飛び込んできたはずの若手や、数年現場を支えてきた中堅が、最後に自分自身に引導を渡すように口にするこのフレーズ。 受け取る側の経営者や管理職は、「本人がそう言うなら仕方ない」「適性の問題だったのか」と納得してしまいがちですが、果たして本当にそうでしょうか。
私たちが1000人以上の声を聴いてきた中で確信したのは、「向いていなかった」という言葉は、個人の能力不足を指すものではなく、「組織との決定的なミスマッチ」を覆い隠すための、最も悲しいオブラートであるということです。
「向いていない」と自分に言い聞かせるまでのプロセス
誰もが最初から「向いていない」と思って入職するわけではありません。むしろ、「この仕事で誰かの役に立ちたい」という強い動機があったはずです。それなのに、なぜ最後には「不適性」という結論に着地してしまうのでしょうか。
そこには、個人の努力では突破できない3つの「壁」があります。
1. 理念と実態の「乖離」による摩耗 「利用者様第一」と掲げながら、実際は効率と数字ばかりが優先される現場。自分の理想とするケアを実践しようとすればするほど、周囲から「意識が高い」「手際が悪い」と煙たがられる。このズレが、次第に「自分の感覚がおかしいのではないか」という自己疑念に変わり、「向いていない」という結論に繋がります。
2. 評価の「ブラックボックス」化 何をもって「良い仕事」とするのかが定義されていない組織では、声の大きな人の意見や、上司との相性が評価のすべてになりがちです。真面目に努力している人が正当に見られない環境に置かれ続けると、人は自信を失い、自分の専門性そのものを否定してしまいます。
3. 教育という名の「放置」 「背中を見て覚えろ」という古いOSのままの現場では、適切なフィードバックが得られません。暗黙の了解を読み解くことにエネルギーを使い果たし、本来の専門性を発揮できないまま、「自分にはこの仕事のセンスがない」と思い込まされてしまうのです。
それは「適性」ではなく「環境」の問題
「向いていなかった」と言って去っていく人の多くは、実は別の法人や別の環境に行けば、驚くほど生き生きと活躍することが多々あります。
つまり、問題は「その人が医療・福祉に向いているか」ではなく、**「その組織の文化や仕組み(OS)に、その人の価値観が適合していたか」**にあります。
このミスマッチを「本人の適性」という言葉で片付けてしまうのは、組織にとって最も危険な逃げ道です。なぜなら、その言葉で蓋をしてしまう限り、組織は自らの課題に気づくチャンスを失い、また次の「想いのある人」を使い潰し続けることになるからです。
採用広報が果たすべき「本当の役割」
私たちが「視える化」を通じて実現したいのは、こうした悲劇的なミスマッチをゼロにすることです。
「うちはこういう考え方で、こういう人を求めています」 「逆に、こういう価値観の人には、うちは向いていないかもしれません」
良いところだけを見せる「飾った採用」ではなく、組織のリアルな色や匂いを正しく伝えること。それこそが、入職後の「思ってたんと違う」を防ぎ、スタッフが「自分はこの仕事に向いている、ここで貢献できている」と確信できるための唯一の手段です。
「向いていなかった」という言葉で誰かが去っていく時、その責任を個人に押し付けるのではなく、組織のあり方を問い直す。 「想いを視えるカタチに」し、価値観の合う人たちが集まる場所を作ること。それが、医療・介護・福祉業界の持続可能な未来への第一歩です。
株式会社視える化は、理学療法士2名で立ち上げた、医療・介護・福祉業界に特化したブランディング支援を行っています。 これまで1000人以上の声を現場で聴いてきた中で見えてきたのは、「思ってたんと違う」という言葉の裏にある構造的課題です。 理学療法士をはじめとする医療従事者の離職背景には、採用のミスマッチや、理念やビジョンが十分に伝わらないままの入職があります。結果として、人材不足や離職率の上昇、膨らみ続ける採用コストという悪循環が起きています。 私たちは、企業のリアルを可視化し、現場のリアルを丁寧に言語化することで、理念や価値観の一致を生む採用広報戦略を設計します。 「想いを視えるカタチに」することこそが、医療・介護・福祉業界における持続可能な組織づくりの第一歩だと考えています。