組織文化はどうやって固定化されるか
「うちはこういう場所だから」という言葉の重み
医療・介護・福祉の現場を歩いていると、必ずと言っていいほど直面する壁があります。それが「組織文化」です。
経営者やリーダーが「新しい取り組みを始めよう」と号令をかけても、現場からは「うちは昔からこうだから」「そんなの今の現場には馴染まない」という声が上がってくる。あるいは、志高く入職した新人が、数ヶ月も経つと現場のどんよりした空気に飲み込まれ、いつの間にか「既存のルール」に従順になっていく。
こうした光景は、どの法人でも少なからず見られるものです。 この「組織文化」という目に見えない、しかし確実に存在する空気感は、一体どうやって形成され、そしてなぜこれほどまでに強固に固定化されてしまうのでしょうか。
私たちは理学療法士として現場に身を置き、1000人以上の声を聴いてきました。その中で見えてきた、文化が固定化されるメカニズムを紐解いていきます。
文化が固定化される3つのメカニズム
組織文化は、トップが「明日からこの文化で行くぞ」と決めて作られるものではありません。日々の小さな積み重ねが地層のように積み重なり、無意識のうちにコンクリートのように固まっていくものです。
1. 過去の成功体験という「サンクコスト」
一つ目の要因は、過去の成功体験の「儀式化」です。 例えば、創業期に少人数のスタッフが身を粉にして働いて危機を乗り越えた経験がある組織では、「長時間働くこと=美徳・責任感」という文化が固定化されやすくなります。
当時はそのやり方が正解だったかもしれません。しかし、時代が変わり、働き方改革が叫ばれ、効率的なICTツールが登場しても、過去の成功体験に縛られているリーダー層は「あの時はこれで上手くいったんだ」という記憶を捨てられません。これが「儀式」となり、今の時代に合わない非効率なルールが「伝統」という名の下に残り続けてしまいます。
2. 「共通言語」という名の暗黙の了解
二つ目は、現場特有の「共通言語」と「暗黙のルール」です。 「〇〇さんの機嫌が良い時にこの報告をする」「このケアの仕方はマニュアルにはないけれど、ここではこうするのが正解」といった、教科書には載っていないルールが現場には無数に存在します。
これらは、現場の人間関係を円滑にするための「知恵」として機能することもありますが、裏を返せば、その文脈を知らない外部の人(新人や中途採用者)を排除する装置にもなります。言葉にしなくても伝わる、という「空気感」が共有されればされるほど、その外側にいる人との境界線は明確になり、内側の文化は純度を高めて固定化されます。
3. 「同質化」を加速させる採用のループ
三つ目は、最も強力な要因である「採用による同質化」です。 組織文化が一定の強さを持つようになると、採用の現場では無意識に「今のうちの雰囲気に馴染めそうな人」を選ぼうとします。
「あの人は能力は高いけれど、うちのカラーには合わないかもね」 「この人は今のスタッフとうまくやってくれそうだ」
こうした判断基準で採用を続けると、組織内の多様性は失われ、似たような価値観、似たような背景を持つ人ばかりが集まります。これを心理学では「社会的証明」や「ホモフィリー(同質性)」と呼びますが、同じような考え方の集団であればあるほど、既存の文化を疑う声は消え、文化はさらに強固に固定化されていきます。
「思ってたんと違う」が起きる構造的欠陥
こうして文化が固定化されること自体が、必ずしも悪というわけではありません。一貫したサービス提供や、結束力の強さには寄与します。しかし、問題は「中の文化」と「外への見せ方」に大きな乖離が生まれた時に発生します。
私たちが提唱している「思ってたんと違う」という離職問題の根源はここにあります。
求人票や公式サイトでは「風通しの良い職場」「チャレンジできる環境」と謳っていても、実際の中身は「過去の成功体験に縛られ、暗黙のルールが支配する固定化された組織」だった場合、新人は凄まじいギャップに苦しみます。
理学療法士をはじめとする専門職は、本来、自分の技術や知識を患者様や利用者様に還元したいという純粋な想いを持っています。しかし、その想いが「固定化された文化」という見えない壁にはじき出されたとき、彼らは「この場所では自分らしくいられない」と感じ、離職を決意します。これは、本人にとっても組織にとっても、そして何よりサービスを受ける利用者様にとっても、大きな損失です。
文化を「変える」前に、まず「視る」ことから
では、固定化された文化を変えるにはどうすればいいのでしょうか。 いきなり「文化を変えよう!」と叫んでも、現場の反発を招くだけです。人が長年培ってきた価値観を否定されると感じれば、より防御を固めてしまうからです。
私たちが大切にしているのは、文化を無理に変えることではなく、まずは「可視化(視える化)」することです。
- 私たちが大切にしている「本当の価値観」は何なのか?
- 現場で暗黙のうちに共有されている「言葉」は何なのか?
- 今の文化は、求職者にどう見えているのか?
これらを一つひとつ丁寧に言語化し、客観的なデータや声としてテーブルに乗せること。主観的な「空気感」を、客観的な「事実」に置き換えていくプロセスが不可欠です。
自分たちの「今の姿」を直視し、それを隠さずに外に伝える。 「うちはこういう場所です」というリアルを誠実に言語化することで、初めてその文化に本当に共鳴する人が集まるようになります。
文化の固定化という抗えない流れを逆手に取り、良い文化、価値観の合う人たちが集まる「新しい固定化」を起こしていくこと。それこそが、ブランディングの本質だと私たちは考えています。
株式会社視える化は、理学療法士2名で立ち上げた、医療・介護・福祉業界に特化したブランディング支援を行っています。 これまで1000人以上の声を現場で聴いてきた中で見えてきたのは、「思ってたんと違う」という言葉の裏にある構造的課題です。
理学療法士をはじめとする医療従事者の離職背景には、採用のミスマッチや、理念やビジョンが十分に伝わらないままの入職があります。結果として、人材不足や離職率の上昇、膨らみ続ける採用コストという悪循環が起きています。
私たちは、企業のリアルを可視化し、現場のリアルを丁寧に言語化することで、理念や価値観の一致を生む採用広報戦略を設計します。
「想いを視えるカタチに」することこそが、医療・介護・福祉業界における持続可能な組織づくりの第一歩だと考えています。